保育士を失わないために整えたい3つの労働環境

保育園を運営していると、保育士が急に辞めて困ったという方も少なくないと思います。ここ数年で新設の保育園が増えており、今後の人材確保に不安をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。ほかの業種に比べると賃金が安く、サービス残業も多いと言われる保育士は、離職率がとても高い職業の1つです。保育士に働き続けてもらうためには、どんな環境が必要なのでしょうか?

保育士が辞めていく理由

まず、子ども・子育て支援新制度の開始に先駆けて東京都が行った調査のまとめから保育士が辞めていく理由を探ってみたいと思います。この調査は平成25年8月から9月にかけて、東京都保育士登録者31,550 名 を対象に郵送で行われました。

対象には現在保育士として働いている人だけでなく、現在は離職している人や保育士資格を取得したけれど別の職業についている人も含まれます。回答者のうち9割が女性です。また20代~30代の回答者が全体の3分の2を占めています。

この調査結果によると、「保育の仕事は好きでやりがいも感じる。しかし業務量の多さや賃金の安さ、職場の人間関係などが原因で、続けていくのが難しい」という意見が多く見受けられました。また、正職員とパートでは待遇が異なる点や、園が保育の質よりも保護者の顔色をうかがうことに気を取られている現状に対する不満なども見受けられました。

保育士が改善してほしいこと

東京都保育士実態調査の「職場への改善希望点」では、改善してほしいという要望の多い順に、以下のような項目が挙げられています。

(1)給与・賞与の改善

「給与が少ない」と感じている保育士が圧倒的に多いようです。保育士の平均賃金は、約216万円です。これは、全国の一般労働者の平均賃金304万円を大きく下回っています。私営の保育園では、手取りが月13〜15万円のところも少なくありません。「子どもの命を預かる重責に見合わない」という声も上がっています。

(2)職員数の増員

2番目に多い改善希望は職員の増員でした。保育現場が人手不足を訴えているのは間違いありません。現状では1人の保育士が大人数の子どもを担当しなければならず、体力的に負担を感じやすくなります。また、代わりの人がいないと休憩時間も取りにくく、ほかの職種に比べて疲弊しやすい環境になっているのではないでしょうか。

(3)事務・雑務の軽減

事務作業にも負担を感じている人が多いようです。保育士は子どもと触れ合う時間以外に、日誌や指導案作成、イベントの準備など、やることがたくさんあります。サービス残業をしている保育士も多く、家に仕事を持ち帰っている場合もあります。長時間労働による過労が体調不良を引き起こし、退職の原因にもなっているようです。

(4)未消化休暇の改善

人手が足りないため、有給休暇も取りにくい状況になっていることがうかがえます。子どもたちの安全を守るためにも休暇は必要です。しかし「有給休暇を取ること自体、遠慮する空気感がある」という声もありました。

(5)勤務シフトの改善

保育園は、早朝や夜間に開設しているところもあります。保育士の中には、早朝から夕方まで保育業務を行い、加えて夜までサービス残業をしている人もいます。これでは、体力が持ちませんし、精神的にも参ってしまいます。

(6)職員間のコミュニケーション

最近は男性の保育士も増えてきましたが、依然として女性の保育士が圧倒的に多い職場です。女性職員の中には、公私混同しやすい方もいるため、一度関係が悪くなると仕事に支障が出ることもあるようです。

風通しの良い職場環境はどの職種においても求められますが、特に子どもを預かる保育の現場では、職員同士の気づきの共有が事故やトラブルの予防にも繋がります。業務量が多いからといって、誰かにゆっくり相談する余裕もない状態では、子どもたちの安全確保にも支障が出てくるのではないでしょうか。

保育現場に求められる環境

保育士が続けられない原因には、さまざまな要因が複雑に絡まっているようです。では、保育士を失わないために、どんな労働環境を作る必要があるのでしょうか?

(1)保育士が満足できる給与

なぜ、保育士は給与水準が低いのでしょうか?その要因の1つに歴史的背景があると思います。戦後、保育所設置のために児童福祉法が整備されました。しかし、当時は「子どもは親族に預けるもの」という認識が強く、保育士の社会的地位が軽んじられていました。

現在も「保育士は子どもと遊ぶだけの楽な仕事」と考えている人が一定数いるのは、その影響ではないかと考えられます。また、認可保育園の運営は、国の補助金と保護者の保育料でまかなわれていますが、財政が厳しいのが現状です。

国の処遇改善策

国は保育士の処遇改善として2013年から段階的に月給を増額し、2017年までの5年間で約10%の賃金の引き上げを行っています。また、中堅の保育士のために、「副主任保育士」と「専門リーダー」を新たに設置し、月額4万円アップする処遇改善を決めました。この加算を受けるには、都道府県の認定を受ける必要があります。処遇改善費は、保育園に直接入るため、運営者はきちんと保育士の給料に組み込むことが大切です。

地方自治体の独自対策

自治体が独自に給与アップを図っているところもあります。例えば東京都は一律2万円の補助を支給していますし、千葉県松戸市では、毎月45,000円〜72,000円を保育士に直接支給する「松戸手当」を始めています。

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(2)保育に向き合える業務体制

保育士は、多忙を極めています。子どもと向き合うだけでなく、指導案やおたよりの作成、行事の準備といった作業もたくさん抱えています。勤務時間内で終わらないことも多く、サービス残業や持ち帰り残業をしている保育士がほとんどです。

保育ICTシステムで事務負担を軽減

残業を減らすための取り組みとして、ICT(Information and Communication Technology)を利用するという方法があります。これは、保育ICTシステム等を利用して事務をIT化し、業務負担の軽減を図るものです。既にさまざまなシステムが開発されています。

スマホやタブレットで指導案を作ったり、日誌に入力したりできるので、事務作業の効率化が図れます。園児の情報も把握しやすくなるため、保育の質の向上にも役立ちます。保護者との連絡機能を搭載したものを利用すれば、円滑なコミュニケーションにも一役買ってくれます。

導入に際し補助金を出す自治体も

保育ICTシステム導入には初期費用が少なからず発生するため、補助金を支給する自治体もあります。補助金の募集期間は短いことが多いため、日頃から動向をこまめにチェックしておくと良いでしょう。

(3)良好な人間関係

前出の東京都保育士実態調査では、保育士の退職理由が「人間関係」と回答した人が約25%いました。「空気が殺伐として仕事がしにくい」と感じている保育士も少なくないようです。良好な人間関係はどのようにすれば構築できるのでしょうか?

余裕を生み出す仕組みづくり

「忙しい」という字は「心を亡くす」と書きます。保育士は、業務に追われて精神的に余裕がない状態になっています。常に緊張と隣り合わせの状態でストレスを感じる出来事があれば、パニックになってしまうのも当然です。業務を見直して無駄を省き、休憩が取りやすいシフトを組むなど、心身の余裕が持てる環境にしておくことは大切です。

挨拶から生まれるコミュニケーション

お互いを理解し、認め合うことができなければ、円滑なコミュニケーションは実現できません。特に新人保育士は慣れない環境で不安を抱えやすいため、信頼できる相談相手を見つけたいところです。園長や主任保育士などが率先して挨拶をしたり、こまめに声がけを行うことは、比較的簡単で効果が得られやすい方法だと思います。

また園の運営者は、職員同士がゆっくり話せる時間を設けたり、新人教育に力を入れたり、職員全員を気にかけていることを伝える努力も必要です。そして話をするときは相手の言葉を遮らず、聞き役に徹する姿勢を心がけましょう。一方的に自分の言いたいことを言うばかりで、相手の話に耳を貸さない人は信頼されません。

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まとめ

不足する保育士を確保するために、国や自治体もさまざまな対策を行っています。しかし、保育園経営者の中には、保育士の処遇改善のために国が支給した補助金を運営者のボーナスに当ててしまったり、本来の用途ではないものに投資しているケースもあるようです。そのような不正は許されるものではありません。

子どもは大人の表情や態度を敏感に感じ取っています。労働環境は、保育士の心身の状態を左右します。保育士が気持ちにゆとりを持って保育に当たることができれば、少なからず子どもにも良い影響が表れると思います。これが質の高い保育に繋がれば、園の信頼も高まることでしょう。

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